無道路地・再建築不可、売れないのに何故高い税金?「無道路地評価」が抱える現実との乖離
相続した土地が、公道に面していない「無道路地」「再建築不可物件」だった——。
そんな時、多くの相続人が直面するのが、「税務上の評価額」と「実際に売れる価格(時価)」のあまりにも大きなギャップからくる、税金の重負担感です。
2026年現在の相続税・贈与税の評価ルールでは、無道路地は一定の減額が認められているものの、不動産取引市場のシビアな現実を反映しているとは到底言い難い側面があります。
今回は、なぜ無道路地や再建築不可なのに「税金(評価額)が高すぎる!」と言われるのか、その構造的な問題点に切り込みます。
※本記事は、相続及び贈与時の「財産評価(相続税評価・贈与税評価)」について言及します。
目次
1.財産評価基本通達における評価方法(相続or贈与時)
ご存知ない方のために、まず、現在の評価手法を簡単に紹介します。
まず、都市計画区域内において建物を建てるには、原則として「建築物の敷地は道路に2メートル以上接しなければならない」という接道義務があります。この義務を満たさない土地(接道義務を満たさない宅地)には、原則として建物が建てられません。
そして税務上も、無道路地は「そのままでは建物が建てられない土地」として扱われます。
そのため、国税庁が定めるルール(財産評価基本通達)では以下のステップで評価額を算出することになっています。
- 実際に利用している路線の【路線価】を判定する(接道義務を満たすための接続先の道路を判定する)。
- 接道義務を満たすために必要な隣接地の【買取想定面積(通路部分)】を算出する。
- 【路線価】×【買取想定面積】により【通路部分の価額】を算出する(※【不整形地の評価or地積規模の大きな宅地の評価後の価額】の40%が限度額(通達では「40パーセントの範囲内において相当と認める金額」と示されています)。
- 【不整形地の評価or地積規模の大きな宅地の評価後の価額】 - 【通路部分の価額】 = 無道路地の評価額
一見、4割(40%)も引かれるなら妥当に思えるかもしれません。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。そう、「最大で40%」なのです。
2.計算例で少し考えてみましょう。
| ①対象地面積 | 200㎡ | 200㎡ | 200㎡ | 200㎡ | 200㎡ |
| ②路線価 | 10万円/㎡ | 10万円/㎡ | 10万円/㎡ | 10万円/㎡ | 10万円/㎡ |
| ③対象地価格(①×②) | 2,000万円 | 2,000万円 | 2,000万円 | 2,000万円 | 2,000万円 |
| ④買取想定面積 | 10㎡ | 20㎡ | 40㎡ | 60㎡ | 80㎡ |
| ⑤買取想定(通路部分)価格(②×④) | 100万円 | 200万円 | 400万円 | 600万円 | 800万円 |
| ⑥控除割合 | 5% | 10% | 20% | 30% | 40% |
| ⑦無道路地評価額(③ー⑤) | 1,900万円 | 1,800万円 | 1,600万円 | 1,400万円 | 1,200万円 |
郊外の住宅地や高級住宅地であるような、少し規模の大きい土地200㎡と路線価10万円/㎡を前提に仮定してみたところ…
いやいや、最大の控除(減価)入れるにはどれだけの広さの土地買い取らなアカンねん!!!
60㎡や80㎡ってもう一軒家建つやん!!!(※筆者は関西圏の住人なのでご了承ください)
となります。(※実際は不整形地補正なども入るのでもう少し控除割合は上がりやすくなるのですが)
ここで、もう一度最初の前提を思い出して頂きたいのですが、これらは全て接道義務を満たしていない土地であり、いずれも「建物が建たない・再建築ができない」ので本来市場で売却するのが極めて難しい(二束三文になる)ほど価値が下がります。
それなのに、たった数%~30%程度の減価で足りるでしょうか?
3.現実との乖離
①建築不可・再建築不可という致命的な欠陥
建築基準法上、道路に2メートル以上接していない土地には、原則として建物を建てることができません。
つまり、買い手からすれば「家を建てられない土地」であり、用途は駐車場や資材置き場、あるいは隣地所有者への売却にほぼ限られます。
市場では、通常の土地の5割〜7割引き、場合によっては「二束三文」でしか取引されないのが現実です(※昔からの言葉で「半値八掛け二割引き」という言葉にもあるように、通常価格の3割程度でしか取引されないことも珍しくありません)。
②隣接地部分を「絶対」買えると考えた評価手法である(交渉コストや買取不可リスクが考慮されていない)
評価額を算出する際、税務上は「隣接地の一部を買い取って道路を通せば建物が建つじゃん?」という前提に立っています。
しかし、現実に隣人が土地を売ってくれる保証はどこにもありません。
足元を見られて極めて高額な買取対価を要求されることもあれば、人間関係のトラブルが生じ交渉すら不可能になることもあります。
また、バブル時より不動産価格は下がったとはいえ、日本人の土地神話は根強く、立ち退きに応じない地主や自分の土地を少しでも広くしたい隣人間での境界トラブルなど、お金をどれだけ積まれても一度所有した土地の一部を簡単に他人に明け渡すとは思えません。
(※隣接地も価値の低い「負動産」であれば話は別ですが、、、)
こうした「目に見えない取得コスト」や「心理的ハードル」、「そもそも買える保証なんてどこにあるの?」は、税務上の不動産評価の算式(ルール)には一切反映されていません。
③割合に応じた控除と「最大40%減」という一律の考慮
上記で示したように、路線価や面積によっては無道路地・再建築不可であるにもかかわらず、40%も減価できずほんの数%しか控除できない。というおかしな現象が発生することもあります。現在の基準(ルール)では、どれだけ条件が悪くても基本的には最大40%の減額が限界です(※無道路地以外の他の補正との兼ね合いはありますが)。
しかし、地方の過疎地や、接道までの距離が極端に長い土地などでは、想定した買取費用を差し引くと価値がほぼゼロに近くなるケースも多々あります。
「市場価値はほぼゼロなのに、相続税評価額だけは数百万円〜数千万円残ってしまう(=その分税金を支払わなければならない)」という逆転現象が発生することになるのです。
4.鑑定評価で対抗できる?
ここで対抗策として考えられるのが、不動産鑑定士による「鑑定評価書」で対抗する手法です。
しかしながら、実務の世界では「税務(通達)評価」VS「鑑定評価」が争点になった場合、ほとんどの確率で鑑定評価が認められることはありません(※一部認められるケースもありますが、「特別な事情」があったと認められる場合でごく少数です。鑑定評価を入れるなら当初申告の段階で入れた方がいいんじゃないかと思います。後出しは結構厳しいです。)
不動産鑑定士の先生方がみなさんどのような鑑定評価書を作成されているかは分かりませんが、財産評価基本通達の無道路地評価と比較可能な評価をする場合は、現状のままの状態ではなく「隣地を買えた場合」という「利用者の利益を害するおそれ」に関わってくるケースに該当するため、本来「個別的要因についての想定上の条件」を設定する必要があると考えられます(※おそらく、多くの鑑定評価書は条件設定をせずに個別的要因の補正でざっくり減価を入れているか、無道路事例との比準により価格を出しているかと思いますが、、、)。
【Ⅱ 地域要因又は個別的要因についての想定上の条件】
対象不動産について、依頼目的に応じ対象不動産に係る価格形成要因のうち地域要因又は個別的要因について想定上の条件を設定する場合がある。この場合には、設定する想定上の条件が鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点に加え、特に実現性及び合法性の観点から妥当なものでなければならない。(『不動産鑑定評価基準』p14)
【Ⅱ 鑑定評価の条件】
対象確定条件、依頼目的に応じ設定された地域要因若しくは個別的要因についての想定上の条件又は調査範囲等条件についてそれらの条件の内容及び評価における取扱いが妥当なものであると判断した根拠を明らかにするとともに、必要があると認められるときは、当該条件が設定されない場合の価格等の参考事項を記載すべきである。(『不動産鑑定評価基準』p39、40)
【(2)鑑定評価の条件設定の手順】
② 地域要因又は個別的要因についての想定上の条件の設定について
ア 想定上の条件を設定する場合において、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがある場合とは、地域要因又は個別的要因についての想定上の条件を設定した価格形成要因が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、鑑定評価書の利用者が自ら判断をすることが困難であると判断される場合をいう。
イ 実現性とは、設定された想定上の条件を実現するための行為を行う者の事業遂行能力等を勘案した上で当該条件が実現する確実性が認められることをいう。なお、地域要因についての想定上の条件を設定する場合には、その実現に係る権能を持つ公的機関の担当部局から当該条件が実現する確実性について直接確認すべきことに留意すべきである。
ウ 合法性とは、公法上及び私法上の諸規制に反しないことをいう。(『不動産鑑定評価基準運用上の留意事項』p5)
・評価書の利用者の利益の観点
・実現性(確実性)
・合法性
これらをすべてクリアにしたうえで、「想定の上の条件」(※無道路地のケースでいけば、隣地から通路開設部分を買取できたら?)を前提にした評価ができるのであり、このような条件を前提にした評価手法(財産評価基本通達の現行ルール)自体が相続税法の「時価」の概念に反するものであると筆者は思料します。
「そのままの状態で第三者に売却する場合」と「隣接地を買取って接道義務条件を満たせた場合」は前提として全くの別物です。
ここを『時価』の観点から論理的かつ実証的に突っ込んだ方がいいのでは?と思います。
〇相続税法22条
「・・・当該財産の取得の時における『時価』により・・・」
→「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」
「客観的交換価値」など法律上明確な定義があるわけではないですが、一般的にこう言われています。
5.まとめ:公平な評価とは何か
不動産特に土地は個別性が非常に高い資産です(※建物は同じものを作ろうと思えば作れます)。
特に無道路地は、その土地が置かれた文脈(隣地(隣人)との関係や周辺環境)によって価値が激変します。
現実の実態に沿っていない画一的な数式による評価ルールは、税務当局の効率性を高める一方で、「担税力(税金を払う能力)に応じた負担」という租税原則を歪めているのではないでしょうか。
売るに売れない土地に対し、机上の空論に近い評価額を基に課税される納税者の苦悩は計り知れません。
課税の公平性や事務処理の効率性を持ち出してくるのであれば、せめて「一律40%減」という処理にしたほうが、まだ幾分市場の実態に近づけるかと思います。
この問題は、税理士、不動産鑑定士、不動産業者、学術研究の有識者そして納税者自身もこの不合理を直視し声をあげていかないと何も変わらないけどそれでいいの?と筆者は感じています。
体験談
前職の税理士法人の時『更正の請求』業務の一環で、無道路地・再建築不可の不動産の評価額を見直すことがありました。
元々の税理士先生は通達どおりの計算式にあてはめ「8%」の減額でそれほど評価額が下がっていなかったのですが、筆者は調べることが得意なので調査に調査を重ね、それらに基づいた意見書を別途作成し、ルール上の最大限である「40%」の減額を認めさせることが出来ました(※不動産鑑定士の鑑定評価書を使わずに)。
返ってきた金額は微々たるものでしたが、誇張せずに言ってもおそらく他の人では多分出来なかったのでは?と今でも思っています。
裁決事例で、この点について少しだけかすってる事例あって、結果的には負けてましたけど、裁判までとことん闘ったら勝てると思うんですよね。
おかしいものはおかしいと制度に抗って、社会を変えたいもの好きな先生がいらっしゃいましたら微力ながらお手伝いさせて頂きます。
<ヤフコメ反響>




