不動産業界のタブー「抜き行為」はなぜ賃貸で目立つのか?
不動産業界(業者間)で長年問題視されている「抜き行為」。
特に「賃貸」の「借主側仲介」で横行していると感じている業者様も少なくないことでしょう。
一方で、消費者側の視点に立ってみてみると、「複数の業者を比較した上で選択するのは当然の権利」と考えている方が多いでしょう。
本記事では、何故このような現象が賃貸・借主側で起きやすいのか?という点を、簡潔に整理したいと思います。
1.「抜き行為」とは何か?(業者慣行のタブー)
抜き行為とは、簡単に言いますと「他の業者が既に関わっている顧客を、横取りして(奪って)自社利益のために成約させる行為」を指します。
例えば、、、、
- 内見を案内し、見積書等の作成・提示を行った業者がいるにもかかわらず、別の業者経由で契約を進める
というケースが、賃貸仲介の現場では最も多いかと思われます。
業界内では古くから「タブー」とされ、業者間の信頼関係を損なう行為として忌避されています。
法的には即違法とは限らないものの、損害賠償請求や信義則違反が争われるケースもあります。
ポイントは、これが主に業者間の倫理・慣習の問題であることです。
※「依頼者は明示義務や通知義務を怠れば、当該媒介契約に従って違約金を支払うこととなる可能性がある。」…とありますが、下記のとおり媒介契約書を締結していない賃貸仲介のような場合にはこのようなケースはほぼ想定されないでしょう。
2.賃貸(借主側)では媒介契約書が交わされない
筆者は、ここに賃貸特有の構造問題があると考えています。
宅地建物取引業法では、媒介契約書の交付義務は「売買または交換」に限定されています。
賃貸借の媒介については、書面の交付が法律上義務付けられていません。
実務でも、借主側では以下が一般的です。
- 口頭や簡易なやり取りで案内を受ける
- 専任・専属専任のような排他的な契約書を締結せず、複数業者に依頼可能な一般媒介契約書も締結しない
- 「この業者に決めました」という正式な拘束(≒契約書の締結)がないまま説明や案内などが進む
結果として、消費者は法的に特定の業者に縛られることはまずありません。
内見や初期費用等の見積りを提示された業者から必ずしも契約する必要はなく、同じ物件を別の業者経由で成約させることも現実に可能です。
しかしながら、既存の業者から見れば「自分が時間や費用をかけて物件調査をし案内した顧客が他社で契約した(横取りされた)」=「抜き行為」に見える場面が増えやすくなります。
また、中にはその負の感情(怒りなど)の矛先が一般消費者に向けられることもあります
筆者自身、大学生時代に一人暮らしのために消費者側で経験をしたことがありますが、当初の業者(某大手FC賃貸事業者)から電話がかかってきて罵倒されたような記憶があります(寝起きだったので何を言っていたかほぼ覚えていませんが…)。
3.情報の非対称性と消費者のセカンドオピニオンニーズ
不動産に関する取引は、人生でそう何度も経験する人も少ないため、業者(プロ)と消費者の間で情報格差が大きい典型的な分野です。
- 地域の慣行・物件内容・相場賃料・契約条件(鍵交換費用、ハウスクリーニング、保証料、保険料の妥当性など)
- 仲介手数料の法的な負担割合と現実の負担割合
- 交渉余地や代替物件の有無、賃貸市場に関する知識
こうした情報を消費者が十分に持っていないため、
「この条件で本当にいいのか?」
「手数料をもっと抑えられないか?」
「他の視点が欲しい」
と感じるのは自然なことです。
特に賃貸では初期費用の差がダイレクトに効くため、仲介手数料無料や割引を掲げる業者に乗り換えるニーズが生まれやすい実態があります。ポータルサイト経由で他社物件を持ち込むようなサービスも広がり、結果として元の業者から見れば「抜き」が発生しやすい環境になっています。賃貸は売買に比べて取引金額が小さく、また頻度が高く、契約の拘束力が弱いことも背景にあ。
4.消費者視点と業者視点のズレ
- 消費者側:正当な業者選択の自由。条件の良い業者を選ぶのは当然。
- 業者側:自分が時間とコストをかけて案内した顧客が他社で成約するのは、努力が報われない行為。→ タブー行為・不義理
このズレが、業界内で「横行している」と感じさせる一因です。
消費者に業者間のタブーを押し付けるべきではない一方、業者側も事前に媒介契約書を締結していない以上「案内や見積り書を提示しただけで顧客を囲い込める」という意識を見直し、接客サービスや仲介手数料の見直しで選ばれる努力が求められる場面が増えていると感じています。
抜き行為が賃貸借主側で目立つのは、単なる「悪徳業者の問題」という単純な話ではなく、業界の慣習・現行の法制度・消費者ニーズ及び行動のズレが生んだ構造的な現象と言えます。
今後は、不動産業界は「情報の非対称性」が強い業界であるため、媒介契約のあり方や情報開示の透明性、消費者への説明責任がさらに問われる時代になってきたと言えるでしょう。

