使っていない農地を貸すと税金が安くなる~知らないと損する「農地バンク」活用~

農業の高齢化や農業従事者の減少により、荒れ地(耕作放棄地・遊休農地)となっている農地を見たことがある人も多いでしょう。

使っていない農地を所有している方や、農業は自分の代で終わりと考えている方の中には
使っていない農地の固定資産税がもったいない
引き継いだ(引き継ぐ)農地をどうすればいいかわからない
と悩んでいる方も多いことかと思います。

本記事では、上記のような””自分で使っていない(使う予定がない)農地の税金を安くするための制度””をご紹介したいと思います。

結論から言うと、農地中間管理機構(農地バンク)に農地を貸すです。
これにより、固定資産税が半額(※一定期間)になり、相続税(贈与税)も低くなります

1.「農地バンク」とは何か

農地バンク(正式名称「農地中間管理機構」)は、使われていない農地や耕作できなくなった農地を農地バンクが一旦借りて、意欲ある農家等へ貸し出す(転貸する)公的な機関です(都道府県知事が県に一つに限って指定します)。

簡単に言うと、「自分では耕作できない農地を、都道府県に預けて、別の農家に使ってもらう仕組み」です。

耕作放棄地が増えると地域の農業が衰退し、食料自給率も低下してしまうため、国はこの仕組みを使って農地の集積・集約化と有効利用を進めています。

2.農地バンクに貸すと固定資産税が半額に

この政策を後押しするために、2016年の地方税法の改正により、遊休農地の課税強化の措置農地バンクに貸した場合には(※一定期間)半額にする特例が設けられました。

遊休農地の課税強化(H29~)

農業委員会による農地バンクの農地中間管理権の取得に関する協議の勧告を受けた遊休農地について、「機構への貸付けの意思を表明せず」「自ら耕作の再開も行わない」場合には、農地の評価額(課税額)が引き上げられることとなりました。

~平成28年度平成29年度~
正常売買価格×限界収益修正率(0.55)正常売買価格
※結果的に1.8倍になる

軽減の措置:対象者

所有する全農地(10アール未満の自作地を残した全農地)をまとめて、農地中間管理機構に10年以上の期間で(※一定の農地を)貸し付けた者。

Warning

令和8年度与党税制改正大綱により、「対象となる農地について、農業経営基盤強化促進法に規定する地域計画の区域内において当該賃借権等が新たに設定される一定の農地とする。」という条件に見直されました。

軽減の措置:内容

貸付期間軽減期間
10年以上15年未満3年間
15年以上5年間(※3年間
Warning

令和8年度与党税制改正大綱により、「賃借権等の設定期間が15年以上である農地について、課税標準を最初の3年間、価格の2分の1とする。」という内容に見直されました。

たとえば毎年、農地について「5万円」の固定資産税を払っていた農地であれば、上記の期間は「2.5万円程度」に下がるということです。

3.問題発覚、相次ぐ過大徴収

ところが最近(2025年)、「農地バンクに貸しているのにこの税の軽減が適用されていなかった」という事例が、複数の自治体で明らかになっています。

報道によると、

  • 各地の農業委員会が自治体の税務担当に優遇対象者の報告を怠っていた
  • 農地基本台帳との照合を職員が手作業で行う際、本来は軽減措置が取られるべき対象を見逃していた

とあり、言われたとおりに農地バンクに貸して、制度上は税金が下がるはずなのに、役所の処理漏れで税金が下がっていない。ということが全国で起きていました。農林水産省が全国の自治体に同様の事例がないか点検するよう呼びかけたようですが、全ての自治体できちんと点検が行われたかは分かりません。

これは制度が悪いのではなく、行政実務の運用が追いついていないことによる問題であると考えられます。

つまり、「日本の縦割り行政の弊害」と「行政職員の勉強不足」、そして「国民だけでなく行政職員が勉強不足になるほどの「複雑過ぎる税制」」が根本原因であると、個人的に思っています。

4.農地バンクへの貸付は「相続税(贈与税)」にも影響します

この制度の影響は、固定資産税だけではありません。

実は、相続税や贈与税の算定の基礎となる「財産評価額」にも影響します。

相続税(贈与税)における農地の評価は、「その農地をどれだけ自由に使えるか」によって決まります。

農地バンクに貸している農地は、

  • 契約期間中は返してもらえない
  • 自分で耕作できない、自由に売却できない

という制限がつきます。

つまり、「自由に使える農地(自用地)」よりも価値が低い状態になります。

このため、相続税評価では「農地中間管理機構に賃貸借により貸し付けられている農地」として、自用地よりも低い評価額で計算されるのが原則です。

たとえば、自用の農地としての評価額が「1,000万円(※固定資産評価額よりかなり高くなることも多いです。)」のとき、農地バンクに条件を満たしたうえで貸し付けていた場合「950万円」になり、相続税が下がるという具合です。

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相続税(贈与税)は申告納税のため税理士が基本的に申告を代理しますが、財産の評価をする過程でこの評価手法の適用を見落としていることもあります。本来下げるべき評価額が下がらず、相続税(贈与税)を余分に払ってしまうケースも、現実に起きています。

5.農地バンクへの貸付は資産管理の効く「節税」

農地バンクへの貸付は、

  • 農地を有効に使ってもらえ、適切に管理される(賃料は農地バンクから振り込まれる)
  • 固定資産税が(※一定期間)下がり、相続税(贈与税)も下がる
  • 貸付期間終了後に必ず農地が返ってくる(※再貸付も可)

という、優れた制度です。

しかし、制度自体がよくても正しく処理されていなければ意味がありません(課税負担は特に)。

農地をお持ちの方は、

  • 固定資産税の軽減が正しく反映されていたか
  • 過去に申告した相続税(贈与税)の相続税評価の区分は正しいか

を一度チェックしてみること、若しくはこのような制度の存在を知っていただくことをおすすめします。

参考